「キャリア」か「出産」か?
今は仕事をしたいけど、将来出産をする選択肢も残しておきたい…。
そういった考えをもつ女性は、多くいるのではないでしょうか?
こうした方たちに最近注目され始めているのが、「社会的(選択的)卵子凍結」です。
社会的(選択的)卵子凍結とは、健康な女性が妊孕力を維持することを目的に卵子を凍結して保存する技術です。
卵子は、年齢とともにその質と量が低下し、妊娠率も下がっていきます。しかし、卵子凍結を活用すれば、年齢や健康上の問題などにより生殖能力が低下する前に、卵子を凍結保存しておくことができ、将来の妊娠の可能性を残しておくことができます。
では実際に卵子凍結をするとなったら、具体的にはどのようなことをするのでしょうか?
本記事では、卵子凍結の流れをご紹介します。
初診では、まず卵子凍結のプロセスについて詳しく説明を受けます。さらに、超音波エコーや採血による検査を行い、検査結果を受けて、排卵誘発剤の使用スケジュールなどが決定されます。
具体的な検査内容としては、感染症検査、超音波検査、AMH検査などにより、感染症の有無や子宮や卵巣の状態、卵巣内の卵子の数などを確認します。
感染症にかかっていないかを確かめるために、採血検査や子宮頚部分泌物検査を行います。子宮頚部分泌物検査では、子宮頸部を専用の綿棒でこすり、分泌物を採取し、感染の有無を確認します。
超音波検査により、子宮や卵巣の形や位置、状態を調べます。
採血により、卵巣内の卵子の数を調べるための検査です。AMHは、発育過程にある卵胞から分泌されるホルモンで、この値を調べることで、卵巣内の卵子の数を推測できます。
効率よく、質の良い卵子を複数採取するため、まずは排卵誘発剤を使用して卵巣を刺激し、通常よりも多くの卵子を成熟させます。
投与期間は人によって異なりますが、卵巣の反応性が良い方の場合、月経開始の約3日後から1週間程度、毎日投与するような形になります。その後通院していただき、採血と超音波診療にて、採卵日を決定します。
排卵誘発剤には注射や飲み薬などがあり、卵巣の状態や年齢、本人の希望などによって、排卵誘発剤の種類や投与方法を決定します。
注射を用いた投与方法の場合でも、自身でお腹に注射をする自己注射も可能なため、こうした方法を採ることで通院回数を減らすことができます。
自己注射する場合は、医療機関にてその方法をレクチャーしていただけるので、ご安心ください。
それでも不安な場合、通院して注射を打ってもらう、飲み薬を使用するなどの対応もできることがありますので、担当医に相談すると良いでしょう。
採卵は、「採卵・胚移植室」と呼ばれる部屋で行われます。
採卵は、内診台へ乗って、経膣超音波にて超音波画像を確認しながら行われます。
経膣超音波の先には針がセットされており、採卵の際は、この針を卵巣の中の卵胞に刺し、卵胞液と共に卵子を採ります。
1回の採卵で採れる卵子の数は、卵巣機能が良い方の場合、1回の採卵で10〜20個程度採れることもあります。
一方、卵巣の機能が下がってくると、1〜2個程度しか採れないこともあります。
採卵を終えると、しばらく安静のために院内のベッドで休み、医師の案内で帰宅します。
採卵後は、培養室と呼ばれる部屋で、採取した卵子に適切な処置をします。
まず、卵子が本当に凍結していい状態かどうかを顕微鏡で確認し、問題がなければ凍結保存に進みます。
採取した卵子は、「成熟卵」、「未成熟卵」、「変性卵」のいずれかに分類され、成熟卵のみ、凍結することが可能です。
卵子の凍結保存には、「ガラス化法(VitrifiGation)」という方法を用います。
具体的な手順としては、まず高濃度の凍結抑制剤に卵子を浸し、細胞内の水分を除去したあとに、-196℃の液体窒素で急速に冷凍します。
「ガラス化」とは、液体が結晶化することなく、粘性が高まり固化することを意味します。凍結する際、細胞内に氷の結晶ができると、細胞は破壊されて死んでしまいます。このガラス化法を用いることで、-196℃の超低温状態でも、固体と液体の中間状態を保ちながら凍結できるため、長期間の保存が可能になります。
卵子を急速に冷凍する際は、クライオトップ(Cryotop)と呼ばれる器具に卵子を乗せて行います。
クライオトップの先端の黒いマーク近くに卵子を最大3個まで置き、クライオトップを液体窒素中に投入、急速冷凍します。
クライオトップの取っ手部分には、患者情報がラベリングされており、誰の卵子か識別できるようになっています。
卵子凍結後は、卵子を保存する専用の液体窒素タンクで保管します。
「凍結」の手順でご説明したクライオトップは、「ケーン」と呼ばれる金属でできた器具に固定し、ケーンごと「キャニスター」という筒のような入れ物に入れられます。
さらに、このキャニスターは液体窒素タンクに収納され、卵子が保管されます。
凍結後の卵子は、このように保管・管理されています。
昨今、女性で自身のキャリアと出産・出産を天秤にかけ、悩んでいるような方にとっては、その両方を実現するための一つの選択肢として、卵子凍結を選ぶことができるようになってきました。
一方で卵子凍結には、実施することで必ず妊娠・出産できる保証はなかったり、体への負担もあったりと、慎重に検討するべきリスクがあるのも事実です。
卵子凍結について検討している方、将来子供が欲しくなった場合の選択肢を残したい方、今は妊娠・子育てよりキャリアを優先したい方は、まずは卵子凍結をよく知っていただくことで、より自身の理想に近い将来を選択していただければと思います。
なお、本記事でご紹介した卵子凍結の流れについては、医療機関によって若干異なる場合がございます。正確な卵子凍結の流れや手順を知りたい方は、実際に卵子凍結を検討している医療機関にお問い合わせください。