不妊治療は、タイミング法や人工授精などの「一般不妊治療」、体外受精や顕微授精といった「生殖補助医療(ART)」に大別されます。
これらの治療をさらに発展させ、妊娠の可能性を高めるために取り入れられているのが「先進医療」です。先進医療とは、国が安全性や有効性を確認するために評価を行っている医療技術で、保険診療と併用できる点が特徴です。
本記事では、不妊治療分野で実際に行われている先進医療の内容を解説します。

先進医療とは、公的医療保険の対象にはなっていないものの、安全性や有効性が一定の基準を満たしていると国が認めた医療技術のことです。
2025年10月1日現在、厚生労働省が認めている不妊治療の先進医療には、次のものがあります(*1)。
受精させる精子を、ヒアルロン酸に結合する成熟した精子に絞り込む技術です。未成熟な精子が卵子に注入されると、受精率や胚の発生率が低下し、流産率が増加することが分かっており、成熟した精子を選別するために行われます(*2)。

胚(受精卵)の発育過程を一定間隔で自動撮影する方法です。培養器に内蔵されたカメラで観察できるため、胚への負担が少ないだけでなく、より正確な胚の評価が可能になります。通常の観察による胚の選択に比べて妊娠率が 20%向上するという報告があるほか、タイムラプスによる胚の評価は、移植する胚の選定に有用であると考えられています(*3)。
子宮内の細菌環境を調べ、治療の参考にする検査です。この検査は「慢性子宮内膜炎」が疑われる方に行います。子宮内が適正な環境であるかどうかを判断し妊娠に向かうことは着床率、妊娠継続率の向上と、流産率の低下が期待されています(*4)。

不妊の原因として、形態の良い胚を移植しても妊娠に至らない「着床不全」があります。これに対し、子宮内膜を刺激して着床しやすい状態に整える方法として、「二段階胚移植法」が考案されました。多胎リスクを避けるために開発された「SEET法」では、胚培養液の上清を子宮内に注入して胚受容能を高めることが期待されています(*5)。
反復して着床・妊娠に至らない一部の不妊症患者では、「着床の窓」がずれることにより、着床不全の原因となることが示唆されました。この検査では子宮内膜を採取し、内膜組織が受容期か非受容期かを評価します。また、非受容期の際はどのくらい受容期までに差があるかも評価を行います。子宮内膜が着床を受容する期間に周期を同期させ胚移植を行うことで、着床率の向上を目指します(*6)。

形態良好胚を移植しているにも関わらず妊娠に至らない着床不全の方を対象に行います。原因不明の再発性着床障害のある方の着床率と妊娠転帰の両方が、子宮内膜スクラッチにより改善できることが示されています(*7)。
従来の顕微授精(ICSI)では、顕微鏡下で運動性や形態が良好な精子を選びます。しかし、ICSIで良好と判断された精子でも、強拡大顕微鏡で見ると頭部に微細な空胞があることがあり、このような頭部内の異常は精子DNAの断片化を誘導し、受精卵の染色体の構造異常や断片化を引き起こす可能性があります。そこで、最大6,000倍の顕微鏡で異常のない精子を選ぶIMSIが活用されています(*8)。

反復して着床・妊娠に至らない方を対象に、慢性子宮内膜炎疑い、または難治性細菌性腟症を検査するために行います。検査結果は、子宮内においてラクトバチルス菌が占める割合が80%以上で正常とされ、この検査の結果に基づいて治療を行うことで、着床率や生児獲得率が改善する可能性があります(*9)。
ERAと同様に、「着床の窓」のずれを調べる検査です。この検査では、着床の窓の鍵となる 48の遺伝子に的を絞ることでノイズが少なくなり、診断精度向上を期待でき、実際に再検査率が低いとされています(*10)。
初期胚を移植した後、さらに胚盤胞を追加で移植する方法です。反復着床不全の方を対象に行われます。初期胚には子宮内膜の胚受容能を高める働きを期待し、胚盤胞がより高い確率で着床することが期待されています(*11)。

先進医療は、保険診療と自由診療との併用が認められた医療技術です。基本の体外受精や顕微授精などは保険でカバーされますが、先進医療部分の費用は自費です。
費用は検査や技術によって異なり、数万円〜数十万円かかる場合があります。
先進医療の適用は、医師の判断によって行われます。
たとえば、体外受精を繰り返しても着床しない場合や、原因不明不妊の方などに検査や技術を組み合わせるケースが多く見られます。

不妊治療の「先進医療」は、より精密な検査や高度な培養技術によって、治療の質を高めることを目的としています。
どの技術も保険診療との併用が可能ですが、費用や効果には個人差があります。興味のある方は、主治医に相談して自分に合った治療法を見つけていくことが大切です。
参考文献