「抗精子抗体」という言葉をご存じでしょうか。妊活や不妊治療の検査で耳にすることがあるもので、免疫が精子を異物と判断して攻撃してしまう現象として知られています。自覚症状はほとんどないため、知らないうちに妊娠しにくくなる原因となることがあります。本記事では、抗精子抗体の仕組みや原因、検査方法、治療の選択肢について解説します。
抗精子抗体は、本来は体内にないはずの精子を「異物」とみなし、免疫反応によって攻撃する抗体です。女性の場合は頸管粘液や子宮内、男性では精液中などで作られることがあります。抗精子抗体が存在すると、精子が子宮に進むのを妨げたり、卵子との受精を阻害したりして、妊娠しにくくなることがあります。このため、免疫性不妊の原因の一つとして知られています。
抗精子抗体が作られる明確な原因は解明されていませんが、いくつかの要因が関与すると考えられています。
抗精子抗体は自覚症状がほとんどなく、日常生活で気づくことはほぼありません。多くの場合、不妊の検査を受けた際に初めて判明します。特に、タイミング法や人工授精を繰り返しても妊娠しない場合に調べられることがあります。
「フーナーテスト(PCT)」は、排卵期に女性の頸管粘液とパートナーの精子の動きを観察し、精子がどれくらい進入できているかを調べます。
「MARテスト」や「イムノビーズ法」は精子の表面に抗体が付着している割合を調べるもので、代表的な検査方法として知られています。
自然妊娠は極めて難しいとされている一方、抗精子抗体の影響が比較的軽度であると評価されるケースでは、人工授精(AIH)によって妊娠に至る可能性が報告されています。国内の報告では、「SI₅₀値(抗精子抗体の強さを示す指標)が10未満であればAIHで妊娠することはありますが、10以上であれば早期に体外受精(IVF)を推奨する」とする見解があります。
抗精子抗体は自覚症状がないため、気づかないまま妊娠しにくくなることがあります。しかし、検査で特定できれば、人工授精や体外受精、顕微授精など適切な治療方法を選ぶことが可能です。妊活を続けていてもなかなか結果が出ない場合は、生殖医療の専門医に相談し、必要に応じて抗精子抗体の検査を受けてみてもいいかもしれません。
参考文献
・日本生殖医学会 生殖医療Q&A(旧不妊症Q&A)(2020)
・「不妊·不育症対策 抗精子抗体検出法の実際」兵庫医科大学教授 産婦人科教授 香山浩二 日産婦誌51巻7号(1999)
・臨床婦人科産科 75巻4号 (2021年4月発行)>Q9 抗精子抗体とはなんですか?これがあると妊娠できないのですか?