「この先の未来に、少しでも安心を残したい」—そう語るのは、新体操元日本代表の坪井保菜美さん。数々の世界選手権に出場し、2008年には北京オリンピックに出場するなど、日本の新体操競技界で活躍されました。
この記事では、坪井さんの卵子凍結に密着し、採卵の緊張感や期待、終えた後の率直な気持ちをお届けします。
ー卵子凍結を知った時期とそのきっかけを教えてください
「最初に卵子凍結のことを知ったのは30歳手前の頃でした。実際に凍結した方の話を聞いて興味を持ちました。でも当時は費用がすごく高くて手が出せず、漠然と“いつかできたらいいな”と思いながら、時間が過ぎていました」
ー漠然としていたところから、実際に卵子凍結を決断した理由はなんでしょうか?
「女子アスリートも含めて、若い女性たちに、卵子凍結という選択肢があることを伝えたいと思ったからです。私が卵子凍結体験を発信することで、若い女性たちが自分の身体に関心を持つことの大切さや、卵子凍結という選択肢を、考えるきっかけになれば良いなと思います」
―なぜそう考えるようになったのですか?
「私自身が自分の身体についてしっかり考えてこなかったので、同じようにならないでほしいと思ったからです。私は高校生の頃からナショナルチームに所属していたのですが、生理が始まったのも遅かったですし、生理不順も続いていました。“生理が来ない方が楽でいいや”と気にせず過ごしていましたが、病気など何も問題がなかったのは本当に運が良かったと感じています」
ー通院中はどのようなお気持ちで過ごされていましたか?
「採卵に向けて卵子の成長経過を診るために、”この日にきてください”と先生から言われるのですが、あまりにもトントン拍子に進み、こんなに早く進むんだ!と驚きました。通院のはじめの頃は不安もありましたが、先生が毎回丁寧に診察してくださっていたので、安心できました」
(初診から採卵までのスケジュールイメージ)
ー通院スケジュールについて教えてください
「初診は昨年受けていたため、採血から数えて通院は計4回、ちょうど3週間後に採卵をしました。採卵までの流れは、月経周期前に採血し、生理3日目に再度採血と内診を受け、そこから排卵誘発剤の服薬が始まりました。1週間後に再び採血と内診。この日は卵胞の状態とホルモン値を確認して、採卵できる状態になったとのことで、”明後日やりましょう”と2日後の採卵が決まりました」
(採卵のため、待合室から手術室へ向かう坪井さん)
ー採卵直前のお気持ちを教えてください
「大きな緊張や不安は感じませんでしたが、”ちゃんと卵子が採れるかな?”という気持ちでした。局所麻酔で行うことになっていて、注射の針を刺される瞬間は少し力が入ってしまいましたが、採卵中は痛みなく行えました」
ー採卵中は意識があったと思いますが、どのようなお気持ちでしたか?
「採卵中、モニターで卵子を採っているところを見ていたのですが、”この卵子に命が宿るのかもしれない”と思ったら感動的でした。初めての感覚でしたし、ちょっと涙が出そうになりました」
(モニターに映る卵胞)
―当日採卵した後の流れを教えてください
「採卵自体は15分ほどで終わり、それからリカバリールームで30分ほど休みました。採卵直後は生理痛のような痛みや重だるさがありましたが、休憩後には痛みもほとんどなくなりました。そのあとは培養士の方から、採卵結果や凍結の流れについて話を伺いました」
(培養士から話を聞く坪井さん)
(採卵から凍結保存までの流れのイメージ)
ー卵子凍結をご経験されて、実施前からご自身の中で気持ちの変化はありましたか?
「”一度は出産を経験してみたい”という気持ちが強くなりました。もともと結婚願望も強くなかったですし、共同生活の経験から、誰かと一緒に生活することの大変さも知っていました。でも、両親を見ていると、家族っていいなと思う瞬間もあって。卵子凍結をしたことで、自分の中で後回しにしていた”結婚”や”妊娠・出産“について、あらためて考えるきっかけになりました」
ー卵子凍結を終えられて、今の率直な感想をお聞かせください
「お守りをひとつ持ったような感覚です。”妊娠・出産について、今すぐ答えを出さなくても大丈夫なんだ”って思えるだけで、心に余裕ができました。また、2回目の採卵を検討しています。今回、卵子を6個保存することができたのですが、先生からは”5〜10個くらいは保存できると良いね”という話を聞いたので、やりたいなと思っています」
ー卵子凍結に関心を持ち始めた女性に伝えたいことはありますか?
「まずはこの選択肢について正しく知って、自分にとって最善の選択なのかを考えてみてほしいです。卵子凍結を勧める前に、自分の身体や妊娠の仕組みを知ることが大切だと伝えたいです」
「卵子凍結」と聞くと特別な選択に感じるかもしれませんが、”未来の自分に安心を残したい”と考えて踏み出す人もいます。
この記事を通じて、あらためてご自身の将来について考えるきっかけにしていただけますと幸いです。