今回は、女子サッカー元日本代表選手として活躍した大滝麻未さんへの特別取材を前編と後編の二部に分けてお届けします。
大滝さんはトップアスリートとして活動しながら、現役中に妊娠・出産を経験され、日本のスポーツ界では「妊娠=引退」という一般的な流れに新しい道を切り開きました。
前編では、大滝さんのアスリートとしての成り立ちから妊娠・出産までの経緯についてお伺いしました。
ープロを目指したきっかけはなんですか?
「はじめからプロを目指していたわけではありませんでした。14歳で行ったアメリカ遠征をきっかけに、いつか海外でプレーしたいと思うようになりました。17歳で代表に選ばれてから『もしかしたら将来プロ選手になる可能性があるのかな』と考え始めました。それから大学時代もずっと海外を目指していましたが、海外に行けない可能性を考えて就職活動もしていました。最終的にいい形で契約を結べたので、プロとしての道を進むことになりました。」
ープロになると自身の体調管理は大事だと思います。競技生活の中で、生理やPMSの悩みはありましたか?
「私自身は本当にそういった悩みがなかったのですが、周りでは生理の前後で体調が悪くなったり、生理前に怪我をしやすくなったりする選手がいましたね。」
ー周囲の選手はそのような症状とどのように向き合っていましたか?
「彼女たちはピルを飲みながらコントロールしていました。生理やPMSは本当に個人差があるので、そういった選手を近くで見ていて、みんな大変そうだなと思っていました。」
ー大滝さんは生理中の悩みはなく、コンディションは問題なくプレーされていたのですか?
「大変なことはなかったのですが、私は昔から生理不順が続いていて、大学生までは生理も半年に1回が普通でした。でも『生理こなくてラッキー』くらいの感覚で、問題視はしていませんでした。今思うと婦人科に行って検査をするなど、しっかり対処するべきだったなと思います。」
ー自分の身体としっかり向き合う事は大切ですよね
「生理不順って放置されがちですが、病気の可能性もあるのでちゃんと検査した方がいいと思います。プロになると必然的にそういった病気の情報などは入ってくるようになります。ですが、もっと若い世代が生理や自分の身体について正しく知れるよう、指導者もしっかり意識を持つ必要があると感じました。」
ー大滝さんはプロとして活動しながら、妊娠されています。妊娠が分かった時はどんなお気持ちでしたか?
「素直に嬉しかったです。チームには、将来的に妊娠を希望していることと、もし妊娠・出産をしながら、競技復帰を目指すことをチームとして認めてもらえるのなら、競技を続けたい気持ちがあることは事前に話していました。 」
ー出産後に競技復帰することを前提として計画を立てていたのですね
「実は夫に、『子どもが欲しいから引退しようかな』と話したら、『なんで引退しなきゃいけないの?』と言われたんです。その言葉を聞いた時にとても新鮮でしたし、確かにそうだなと思いました。夫がそう言ってくれなかったら引退していたかもしれません。」
ー妊娠中はどんなことに気をつけていましたか?
「妊娠中の身体の変化って100人いたら100通りのパターンがあると思うんです。前例など色々調べてはみましたが、あまり参考にしすぎないようにしていましたね。」
ートレーニングはどのようにしていたのですか?
「基本的には自分でメニューを組んで、体調に合わせてその時にできることをやっていました。できない期間は切り替えて、自分の弱いところを補強する期間として過ごしていました。」
―競技復帰をした時の心境を教えてください
「妊娠・出産からの競技復帰、というあまり前例がない中で、チームメイトはどんな風に思っているんだろう、という不安は感じていました。でも、実際に報告したときにはみんな本当に喜んでくれたんです。それでホッとしたというか、とても安心しました。」
ー現役中に妊娠と出産を経験されて大変なことも多くあったと思いますが、そこまで大変じゃなかったことはありますか?
「家族や周りの人のサポートのおかげで、そこまで大変に感じたことはありませんでした。妊娠中や出産時に何のトラブルも起こらなかったので、本当に運が良かったと思っています。」
ー大滝さんのご経験を通して次の世代へのメッセージはありますか?
「不安もあるかと思いますが、現役選手でも妊娠・出産を一つの選択肢として考えてみてほしいと思います。今までは『子どもが欲しいなら引退』というのが自然な流れだったと思うのですが、そうじゃない道もあるということを知ってほしいです。」
日本のスポーツ界では珍しい、「妊娠と競技の両立」を実現した大滝さんの姿は、多くの女性アスリートへ新しい道を示したことと思います。
「当たり前」や「普通」という言葉にとらわれず、常に色々な選択肢を持つことが大切だと感じました。
後編では出産後の競技復帰と引退、そして女性アスリートに向けた卵子凍結の可能性について、さらに詳しくお話を伺います。