女子バレーボール元日本代表選手として輝かしいキャリアを歩んできた大友愛さん。現役当時から、競技人生と女性としての人生をどう両立していくかを意識していたと言います。その後、妊娠・出産を経て一度は引退するものの、子育てと競技を両立させるためのサポートを得て再び現役復帰。後のオリンピックではメダル獲得にも貢献されました。今回のインタビューでは、次世代のアスリートへのメッセージ、そして「卵子凍結」という選択肢についてのお考えを伺いました。
ー妊娠・出産後の現役復帰はどのような難しさがあると感じますか?
「まず、お金の問題が大きいですね。私は競技に集中するためにベビーシッターをお願いしていましたが、かなりの費用がかかります。また、ママさんアスリートが競技に戻るためには身体的なサポートも不可欠です。海外だとそういったサポートが当たり前のようにあって、出産後に競技へ復帰することは割と一般的なんです。」
現役復帰を支えてくれた眞鍋監督も、こうした日本の風習を変える必要性を感じており、さまざまなサポートをして下さったそう。理解のある指導者が増えることで、復帰への壁も低くなっていくかもしれませんね。
ーアスリートとして活躍しながら将来子どもが欲しいと考えている方々に、何かアドバイスはありますか?
「子どもは欲しいと思っても簡単に授かれるわけではないですし、競技が人生で一番大事かというとそうでもない。女性としての幸せを感じる権利も当然あると思います。だから、こうした悩みを一人で抱え込まないで、周囲に自分の気持ちを打ち明けて、同じ経験を持つ人たちとつながることで、現実的な視点が得られると思います。」
一歩踏み出して、同じ経験をした先輩にアドバイスを求めることが大切ですね。さらに、競技人生への価値についても昔に比べて変わりつつあると言います。
ーこれまでのご経験から、若い世代のアスリートに伝えたいことはありますか?
「競技人生は短いとよく言われますが、実際はどんどん長くなってきています。若さが武器の時代もあれば、経験が強みになる時代もある。短期間に全てをかけるのではなくて、長い目でスポーツに向き合ってほしいです。また、『競技人生か女性としての人生か』という選択を迫られるのではなく、両方を諦めずに進むのが当たり前の世界になることを願っています。」
ー娘さんが日本の代表の登録メンバーに選出されたということで、今どのようなお気持ちですか?
「楽しみですね。娘に対してバレーのことで口を出したことはなく自由にやらせてるのですが、次のロサンゼルスオリンピックは娘が中心になると思っているので、自覚を持った方がいいということは伝えています。だんだんと本人も自覚を持って、日の丸を背負う覚悟はできているのかなというのは見ていて感じます。」
ー引退後の妊娠・出産に関するリスクについてどうお考えですか?
「多くの人は、引退後に自然に子どもを授かれると考えていますが、実際には不妊治療が必要なこともあるという話をよく聞きます。若い世代には、妊娠できることは当たり前ではなく、不妊や高齢出産のリスクもあることを知ってもらいたいです。」
実際に、厚生労働省の2021年のデータによると、不妊を心配したことがある夫婦は39.2%とされていて、その割合は夫婦全体の約2.6組に1組にあたります。また、不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は22.7%で、これは夫婦全体の約4.4組に1組の割合とされています。(*)
ー大友さんご自身も引退後の妊娠にはご苦労があったとお聞きしました
「30歳で引退して長男を出産しましたが、その前に2度の流産を経験しました。出産した長男も心臓病を抱えています。競技人生を送る中で、自分が思っている以上に身体に負荷がかかっていたのだと実感しましたし、もっと気を配っていれば流産は防げたんじゃないかとも考えました。子どもが健康に生まれてくるのは当たり前ではないということ、そして特に高齢出産になるとそのリスクが高くなるということを伝えたいです。」
多くの人が不妊に悩んでおり、高齢出産により生じるリスクについても理解した上で、妊娠・出産のタイミングについて計画的に考える必要がありますね。
ー「卵子凍結」について、どのように感じていますか?
「卵子凍結はアスリートにとって理にかなった選択肢だと思いますが、認知度はまだ低いように感じます。私たちの時代にはこのような選択肢はありませんでしたが、時代が進んだ今は、アスリートが競技を続けながら妊娠・出産を計画的に考えられる手段として、卵子凍結は素晴らしい選択肢だと思います。卵子凍結が今よりもっと当たり前になり、復帰をサポートする協会が増えれば、日本のアスリートはさらに強くなると思います。」
ー卵子凍結が選択肢の一つになることで、競技人生も変わる可能性がありますね
「今は妊娠・出産が現役引退のきっかけになることが多いですが、卵子凍結が普及すれば、競技を続けられる選手が増えるかもしれません。4年周期のオリンピックに合わせて計画的に人生を考えることも可能になりますし、選択肢が広がりますよね。」
ー今回のインタビューに応じてくださったのは何か理由がありますか?
「私がこうして発信することで、現役の選手たちに卵子凍結という選択肢があることを知ってもらえると思ったためです。卵子凍結をすることで妊娠・出産のタイミングについて選択肢を持って考えられますし、将来を不安に感じている人がいるとしたら、知るだけで肩の荷が降りるかもしれない。デリケートな問題であるからこそ、発信していくことが大事だと感じています。」
ー実際に発信して得られた反応もあるのでしょうか?
「心臓病の子どもを持つ方々から『勇気をもらえた』とメッセージをもらうことがあります。知名度のある現役選手や引退後の人が発信することで、多くの人の目に止まるため、発信する意義は大きいと感じます。時には否定的な意見もあるかもしれませんが、それでも発信を続けたいと思います。」
妊娠・出産を経て競技復帰した大友さんから、次世代のアスリートや女性へのメッセージ、卵子凍結の可能性について貴重なお話を伺いました。女性アスリートが「競技人生」と「女性としての人生」を両立し、どちらも大切にできる未来の実現に向け、我々も引き続き情報発信をしてまいります。
参考文献